ところで約束問題ってなによ?

約束問題というのは、便益を今得るために、コストを後で支払うと「約束」する時に発生する問題だ。ところで、こういう形の約束は多い。典型的には借金とかね。等価交換のそれぞれの支払いに時間的な距離がある場合だと考えてもらっていい。

で、問題はこういうことだ。あなたが今もってる「今の財産」と、俺が将来手に入るであろう「未来の財産」を交換しましょう、そのほうが二人にとってメリットがたくさんありますよ、と。そういう状況を想像して欲しい。んで、そのとき、俺もあなたも、その交換が「等価交換」であることを納得する。だから、その交換は妥当だと考える。交換してもいいよ、と約束する。

そのあと、実際の交換となるわけだけど、まず俺はあなたの「今の財産」を受け取る。ここまではいいの。重要なのはその後だ。時間が経ち、俺が「将来の財産」を手に入れ、あなたにそれを支払うことになる。その時、俺は必ずこう思う。『気が変わった。支払いたくない。』 約束なんて知ったことじゃない(実に自然な考え方でしょ?)。そうなると、支払わないために俺はいろいろな言い訳を用意するだろう。それであなたを納得させることができなければ、今度はケンカだ。そういう結果になることは十分にある。

そうなると、約束問題は別の局面を迎える。途中で気が変わってしまうのは実に自然だし、だからみんなそう考えるだろう。するとみんな約束なんて守れないんだから、時間的な距離のある交換ができなくなってしまうことになる、という問題だ。その交換があなたに(そして俺に)どれだけ多くのメリットをもたらすとしても、その選択肢を捨てなきゃいけない。それはとても不自由なことなんだけど、だって仕方がないじゃん、俺自身ですら気が変わるのを押さえきれないんだもの。これはどうにもしようがない現実なの。

では、この劣悪な状況を越えて、よい結果を得るためには――約束をするためにはどうしたらいい? 俺が約束を守れるようになるには、あなたに俺を信用してもらうためには、どうしたらいい? これが約束問題で、先に挙げた劣悪な状況の一つの標本だ。よりよい答えは誰しも分かっているのに、実践できない。

こういう、本能的な問題に対応するためのものが訓練なんだ。あらかじめ準備し、訓練することで、約束問題は超えられる。自分を訓練しようとするのは人間だけに見られる行動で、つまりこれこそが人間らしい行動だということもできる。