化粧とナルシシズム

化粧という行為にはナルシシズムがあふれている。というか、ナルシシズムがなかったら、どうして自分の顔を長々と鏡で眺めていられるというのだろう。そういう視点に立てば、一般には男性より女性のほうがナルシシズムが強いと考えることができる。なんだかんだ言った所で、化粧をする男性はほとんどいない。化粧をする女性は多い。一日の活動時間全体のうち、どれだけの割合を化粧にかけるのだろうか。この労力というものには脱帽する。

別にナルシシズムが悪いと言うわけじゃない。最低限、ある程度のナルシシズムを持たなければ、人間は生きづらいものだ。自信のない人間に足りないのは努力でも実力でもなく、ナルシシズムだ。自己憐憫ではなく、自己陶酔という意味での、ナルシシズム

しかし、ナルシシズムというのは他人から見るとひどくみっともなく見えるものだ。自分の能力を過大評価したり、自分の容姿を有名人と比較していい線いってると思ってみたり。そういう勘違いは争いの種になるばかりでなく、たいてい滑稽だし、時にうんざりする。俺達がナルシシズムに拒否反応を示すのは多分その辺りにあるのだろう。「俺のほうが頭いいぜ」的勘違いの応酬を繰り返すのはいやだし、いくら馬鹿が利口ぶったところで馬鹿が直るわけではなく、かえって惨めになる様をさらしたくない、と。これは化粧に関して抱く感想でもあるのだろう。「俺のほうがかっこいいぜ」的勘違いの応酬を繰り返すのはいやだし、いくら不細工が容姿に金をかけたところで美形になれるわけではなく、かえって惨めになる様をさらしたくない、と。

ひとつだけ覚えていて欲しいのは、ナルシシズム自己欺瞞のひとつで、自己欺瞞は進化の過程で人間が身に付けた能力だ、ということ。詳しいことは進化心理学の本でも読んでもらうとして、とにかく言っておきたいのはナルシシズムは無用の長物というわけではないことだ。もちろん、いつでも使い勝手のいい能力というわけでもない。

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